音楽家が売れない理由を考えてみる。

 音楽家として生計を立ててゆくことは、なかなか大変です。
『音楽家は音楽の才能さえあればどうにかなる』と思ってしまいがちですが、音楽の神童モーツァルトでさえなかなか良い就職先に着くことができぬままその生涯を終えました。

今回の記事では、音楽家として生きてゆくためにはどのようにして糊口をしのげば良いのか、学生時代に思っていたことと、プロになってから思うことを率直に書いてみました。


クラシック音楽家が売れない理由を、クリスマス・イヴにも仕事をしなければいけない無名の売れない音楽家が考察した日記の1ページ


クリスマス・イブ


日本でクリスマスといえば恋人たちのためのロマンチックな時ではありますが、ドイツに住む売れないクラシック音楽学生にとっては、まさに”かきいれ時”であります。

日本の神社のように、ドイツには教会が街のいたるところにあります。
そしてクリスマスには、ミサを行なうための大量の音楽家が必要になります。

普段のオーケストラのピリピリと神経をすり減らしながら演奏するのとは違い、クリスマス独特の喜びに満ちた雰囲気がオーケストラ内にたちこめています。
教会の演奏会のギャラはなかなか良いためもあります。

巨大なパイプオルガンと一緒に演奏できる機会もあまり無いので、大変に嬉しいことです。


クリスマスの時期に特に忙しい楽器は、オーボエ、ファゴット、トランペット、そして弦楽器奏者たちです。
我々フルート奏者にはあまり仕事がまわってこないため、他の楽器にすれば良かったと思いながら家でウジウジ過ごすことになります。

特に母数の少ないオーボエ、ファゴット、ヴィオラ、チェロ奏者達は、1つの教会のミサが終わるとすぐに次の教会へ移動して演奏し、また次の教会へと、午前中からみっちりと分刻みでスケジュールが埋まってゆくさまを指を咥えながら眺めることになります。

逆に、この時期に一番需要の少ないのがクラリネットでしょうか。
クラリネットは比較的新しく創られた楽器のため、フルート以上になかなか出番がまわってきません。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回のテーマ『音楽家が売れない理由を考えてみる』、私も売れない音楽家の一人なので、今年一年間の自己反省を込めて書いてゆこうと思います。

音楽家が売れない理由を考えてみる

そもそも音楽家として売れるというのはどのようなことでしょうか。
『売れている音楽家』とは、あちこちで演奏会を開き、CDも何枚も発売し、学校や音楽教室で教えている方を思い描きます。

音楽家として売れない理由はいくつも考えられますが、すぐに思い当たるのは以下の理由でしょうか。

単純に実力不足

そもそも実力不足で仕事が無くなってしまうのは、音楽業界では当たり前のことでしょう。

私もオーケストラのエキストラに何度か運よく呼んでいただきましたが、本番で事故を起こし、その後そのオーケストラからお仕事をいただくことは無くなってしまいました。

この業界は狭いので、実力のない演奏家の噂はすぐに広まってしまいます。

運良く演奏会で事故を起こさなくとも、長年演奏していればいつか実力不足は共演者にもお客さんにもバレてしまいます。

現在(2021年)、運良くプロの演奏家になれた私ですが、当時のブログには以下のようなことを書いていました。

音だけで他人にアピールすることはそう簡単なことではない。
言葉をもってしても他人と接することが難しいのに、ましてや良く意味のわからない音で他人を魅了するのはそうやすやすとできることではない。

もっと人生を懸けて、人が遊んだり寝ていたりするときにも常に音楽を磨くよう努力が必要である。
ストイックに音楽を勉強すること。

当時どうしてもプロになりたいとの一心で毎日を過ごしていましたが、初心にかえって頑張りたいと思う次第です。

性格に問題あり

モーツァルトをはじめとした天才音楽家たちの生涯をみると、音楽家として成功するためには人間性が実力以上に必要であるのかと思ってしまいます。

どんなに良い演奏をしてもあいつは性格悪いからと噂が広まると、誰も演奏を聴いてくれなくなってしまいます。

天狗になっていれば叩かれますし、芸術家として孤高の存在の中に生きていても世間から認知されません。

多くの音楽家の卵にはこの意識が欠けていますが、どんな時にも自分が面白くて良い奴であるとアピールする事、それが出来なければそのように良い人を演じようと努力することは必要です。

正確に客観的に自身の能力を把握すること、言い換えればそこまで大した才能が無い事を自覚し、周りにゴマをすらないと将来はないと思う事は音楽家として生きるために必要なスキルだとあえて書きます。

性格に難のある音楽家はオーケストラのオーディションに合格しても、試用期間で落とされる確率が高いです。

自分がやりたい音楽のためと割り切り、周りには愛想をたくさん振りまいておきましょう(自戒)。

運が無い

運がある=才能のあるという図式が成り立ちます。
どんなに努力していて才能があっても、運がなければ成功することはありません。

かといって風水や占いに頼る事を勧めているわけでは決してありません。

かつて私の尊敬する大先輩は、「成功を手にしようと努力や準備している人に運はついてくる」とおっしゃっていました。

この記事を書いた音楽学生だった当時の私は、以下のようにクリスマスに愚痴を書いています。

運のある奴は演奏がめちゃくちゃ上手いか下手くそかどちらかだ。
下手くそな奴ほど人望や凄いコネを持っていたりする。

運のない奴は大抵、演奏も下手でもなくかと言ってうまくもなく中途半端で、性格も面白くもないけれど別に嫌じゃないのである。
要するに何をやっても中途半端。
野心がないくせに、タナボタを心から願っている。

芸術家、音楽家として生きてゆくために最も大切な事は、成功している他人に嫉妬したり妬む事ではなく、ひたすら自分のやるべき事に打ち込む事です。

売れなければ売れるまで努力すれば必ず売れます。
運を掴むためにも日々惜しみなく努力したいものです。

終わりに

別に誰かのことを思って書いたわけではなくすべて自分の反省しなければいけないことなので、あまり真に受けないでください。

良いクリスマス、年末を!

 

私はようやくプロになれてからもうだつの上がらない毎日を過ごしていますが、学生時代の熱い気持ちをもう一度持って音楽に接してゆきたいなと思った次第です。



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