マルセル・モイーズ考 第2回『ソノリテについて』

マルセル・モイーズ考 第1回『人柄と教育』では、モイーズがどのような人物であり、またどのような練習曲を勧めていたかをざっと見ました。

今回はロングトーンとして有名な『ソノリテについて 方法と技術』の作られた背景と、モイーズ自身がフルートの音色をどのように考えていたか考察します。




1、背景


1934年出版。
モイーズは旅行へ行くためにお金が必要であり、この練習曲集をささっと作り、(おそらく著作権ごと)出版社に売り払いました。
フルートの教本の中で最も有名なものが、このような理由で生まれた事は大変に興味深いです。

モイーズは若い頃、フルートの演奏技術に問題を抱えており、それを克服するために自ら膨大な練習曲を作っています。
それは生涯にわたり続けられ、なくなる直前まで練習曲を作っていました。

2、練習方法


モイーズは『ソノリテについて』の最初の練習課題(有名な、シー♭シーと半音階で下降するもの)について、できるだけ鮮明な音を得るために♭シはブリッチャルディキーを用い、また♯ファについては右手人差し指でFisキーそのものを押さえる事を推奨していました。

そして美しい音色で均一に、特に中音域ミからドにかけては特に注意するよう求めました。

注意する事として、モイーズは『ソノリテについて』の第4ページで、音域が下がったときに顎を動かすよう指示しています。

吉田雅夫先生の訳から引用:

(音域が下がるにつれ)”両顎をしだいに緊張させる。下顎がだんだん前に出る。そして両唇の圧力がだんだん強くなる。”


ここで特によく誤解されている事は、音域が下がったときに顎を前に出し、唇を両脇に引く事で音程をあげなければならない理由についてです。

モイーズが吹いていた楽器はスケールが現代のものと違って設計が違っており、正しい音程を得るためにはこのようにしなければならなかった事が考えられます。

1930年代当時、基準音がA=435から440へと高く移行する時期であり、当時の楽器ではA=440で正しい音程で吹くためには顎でかなり音程を操作する必要がありました。

吉田先生が『音の同質性』と訳していますが、原文を読む限りでは音色の同質性ではなく、音程の均等さを示すものと考えられます。

モイーズが使っていた当時の楽器は音程の悪く、音程を調整するためにこのような助言をしていることに留意しましょう。

3、参考


参考文献は、
フルートの巨匠 マルセル・モイーズ
フルートを語る ジェームズゴールウェイ 著/吉田雅夫 訳
モイーズ : ソノリテについて 方法と技術 日本語版 (フルート教則本) ルデュック出版


ジェームズ・ゴールウェイによる、「ソノリテについて」を発展させたエクササイズです。
ぜひ参考に練習に取り入れてみてはいかがでしょうか。


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